古典のコレクション
収録作品
AGIアトラスで公開している世界の古典です。作品を選ぶと、概要と版の来歴を確認できます。
紀元前2400年〜紀元前1800年頃
プタハヘテプの教訓
「世界最古の書物」と呼ばれる、約4400年前のエジプトの処世訓。老いた宰相プタハヘテプが、王の許しを得て息子に語り残した43の格言——学識を鼻にかけるな、無知な者とも賢者と同じように語れ、指導者になったら聞くことを学べ、強欲はあらゆる悪の束である。議論の作法、上司との付き合い方、部下の遇し方、家庭のおさめ方。現代の自己啓発書が語ることのほぼすべてが、ピラミッドの時代にすでに書かれていた。主要写本のプリス・パピルスはパリの国立図書館に所蔵されている。
紀元前2300年〜紀元前2250年頃
イナンナ女神讃歌
アッカド王サルゴンの娘で、ウルの月神ナンナに仕えたエン女神官エンヘドゥアンナがイナンナ女神へ捧げた154行の讃歌。女神の力の讃美から、反乱による追放の嘆き、祈り、そして回復までを一人称でうたう。名前の知られる人類最古の詩人による代表作。
紀元前2100年〜紀元前1100年頃
ギルガメシュ叙事詩
人類最古の物語文学。ウルクの暴君ギルガメシュは、神々が遣わした野人エンキドゥと死闘の末に無二の友となり、香柏の森の怪物フンババを討ち、女神イシュタルの求愛を退ける。しかし友の死に直面したギルガメシュは死の恐怖に取り憑かれ、不死を求めて世界の果てへ旅立つ——大洪水を生き延びた唯一の人間ウトナピシュティムに会うために。友情、喪失、死すべき運命との和解。4000年前に粘土板へ刻まれた主題は、いまも文学のすべての主題である。石板はニネヴェのアッシュルバニパル王図書館跡から発掘され、大英博物館に所蔵されている。
紀元前1950年〜紀元前1850年頃
シヌヘの物語
約3900年前のエジプト中王国に書かれ、エジプト文学の最高傑作と讃えられる物語。アメンエムハト1世崩御の混乱の夜、密使の言葉を立ち聞きした廷臣シヌヘは、理由も告げずに国を捨てて逃げる。シリア・パレスチナの地レテヌで族長にまで上りつめ、豪傑との一騎打ちを制した男が、老いて願うのはただひとつ、故郷の土に葬られることだった。センウセレト1世の恩赦の勅書が届いた日、シヌヘは砂塵を髪に振りかけて踊り上がる。逃亡と望郷、恩赦と再生。一人称で語られるこの人間の物語は、成立から500年を経てもなお書き写され続けた古代のベストセラーである。
紀元前1755年〜紀元前1750年頃
ハンムラビ法典
約3750年前、バビロンの王ハンムラビが発布した世界最古級の成文法。前文・282条・後文からなり、「目には目を」で知られる同害報復の原則、身分による刑罰の差、商取引・家族・医療・建築まで及ぶ規定は、古代メソポタミア社会の姿を驚くほど具体的に伝える。石碑は前12世紀にエラムへ戦利品として持ち去られ、1901〜02年にスーサで発掘された。現在はルーヴル美術館所蔵。
紀元前1200年〜紀元前1100年頃
エヌマ・エリシュ
約3100年前のバビロンで生まれた創世叙事詩。冒頭の二語「エヌマ・エリシュ(上なる天がいまだ名づけられざりしとき)」がそのまま題名となった。原初の海である女神ティアマトと淡水の神アプスーの混沌から神々が生まれ、やがて母ティアマトは怪物の軍団を率いて子らに牙をむく。名乗り出た若き神マルドゥクは、勝利の代償に神々の王権を要求し、嵐を駆ってティアマトを討つ。引き裂かれたその体から天と地が造られ、反逆の神キングウの血から人間が造られ、大地の中心にバビロンとその神殿エサギラが据えられる。全7書板・約1000行。バビロン新年祭で毎年朗誦され、王権と世界秩序の根拠を語り続けた「国家の叙事詩」である。粘土板は前7世紀ニネヴェのアッシュルバニパル王図書館跡などから出土し、1876年のジョージ・スミスによる紹介は、聖書の天地創造に先立つ創世神話として世界に衝撃を与えた。
紀元前1200年〜紀元前900年頃
ガーサー
ゾロアスター教の聖典アヴェスターの最古層をなす17歌238節の賛歌集。詠み手ザラスシュトラ(ゾロアスター)がアフラ・マズダーに語りかけ、真理と偽り、善き思い、二つの霊のあいだの選択を問いと祈りの形で説く。
紀元前720年〜紀元前680年頃
仕事と日々
約2700年前、ヘリコン山麓の村アスクラの詩人ヘシオドスが、遺産争いで賄賂の裁きに頼った弟ペルセースに宛てて歌った全828行の教訓詩。ギリシア教訓詩の源流である。プロメテウスの火盗みの代償として送り込まれたパンドラと甕に残った希望、黄金から鉄へと堕ちていく五つの種族、鷹に掴まれた小夜啼鳥の寓話が、ひとつの問いに束ねられる——人はなぜ働かねばならないのか。「働くことは恥ではない。恥は働かないことだ」。正義を説き、隣人との付き合いを説き、プレイアデス星団の合図で始まる一年の農事暦と航海の心得、日々の吉凶までを歌い切る。畑を耕す一農民の声がそのまま文学になった、ヨーロッパ最古の「仕事論」である。
紀元前620年〜紀元前564年頃
イソップ寓話
狐と狼、鷲と亀、アリとセミ——。前6世紀の伝説的な語り手イソップに帰される動物寓話の集成は、短い物語の結びに人間の愚かさと知恵を鋭く映し出す。二千年以上にわたり世界中で読み継がれてきた寓話文学の源流を、シャンブリ校訂版の全358話で読む。
紀元前610年〜紀元前570年頃
サッポー詩片
紀元前6世紀、レスボス島の詩人サッポーが遺した歌のかけらを集める。恋の炎に灼かれる身体、アプロディーテーへの祈り、婚礼の夜のざわめき、娘クレーイスへの愛——古代ギリシア最高の抒情詩人と讃えられた声が、167の断片から立ちのぼる。
紀元前500年〜紀元前400年頃
孫子
約2500年前、中国・春秋時代末期に成立した世界最古級の兵法書。呉王闔閭に仕えた将軍・孫武(伝)に帰される全13篇は、「戦争とは国家の一大事である」と説き起こしながら、百戦百勝よりも戦わずして敵を屈服させることを最善とする。「戦争とはだまし合いである」「敵を知り己を知れば、百たび戦っても危うくない」——冷徹な合理主義で貫かれた戦略・情報・統率の原論は軍事の枠を超え、曹操が注をつけ、武田信玄が旗印に掲げ、今日では経営や交渉の古典として世界中で読み継がれている。
紀元前500年〜紀元前300年頃
カタ・ウパニシャッド
古代インドのウパニシャッドを代表する、全6ヴァッリー119節の哲学詩。死の神ヤマの館を訪れた少年ナチケータスが、人は死んだあとも在るのかと問い、ヤマが善きものと快いものの分かれ道、そして生と死を越える自己(アートマン)の知を説き明かす。
紀元前480年〜紀元前250年頃
論語
約2500年前の中国、春秋時代の思想家孔子(前551〜前479)と弟子たちの言葉を集めた語録。孔子の死後、弟子と孫弟子たちが数世代かけて編纂し、全20篇・約500章にまとめた。「学んで、しかるべき時にそれをおさらいする。なんと喜ばしいことではないか」「自分の望まないことは、人にしてはならない」「昔のことをよく学び直して、そこから新しいことを知る」——。仁と礼を軸に、学ぶこと、人と生きること、政治のあり方を短い対話と箴言で語るこの書は、漢代以降の中国で経典となり、朝鮮・日本・ベトナムへ広がって、二千年にわたり東アジア世界の思考の土台であり続けた。人類史上もっとも長く、もっとも広く読まれてきた古典のひとつである。
紀元前450年〜紀元前250年頃
コヘレトの言葉
人生の労苦、時間、喜び、死を見つめ、「日の下」で人に何が残るのかを問い続ける古代イスラエルの知恵文学。すべてが過ぎ去る世界で、与えられた日々を受け取り、神を畏れて生きる道を語る。
紀元前429年〜紀元前425年頃
オイディプス王
疫病に苦しむテーベを救うため、王オイディプスは先王殺害の真相を追う。手がかりを一つずつ明るみに出す探究は、やがて捜す者と捜される者が同じ人間であるという、逃れられない真実へ行き着く。知ること、権力、運命をめぐる古代ギリシア悲劇の代表作。
紀元前400年〜紀元前250年頃
老子
道と徳をめぐる短い章からなる古典。作為を排し、やわらかくおのずからなるあり方を説く。道経三十七章と徳経四十四章、あわせて八十一章。
紀元前399年〜紀元前387年頃
ソクラテスの弁明
不敬と若者を堕落させた罪で訴えられたソクラテスが、知恵とは自分の無知を知ることだと語り、死を恐れず正しく生きる道を選ぶ。プラトンが描いた、哲学と市民の責任をめぐる弁明。
紀元前300年〜紀元前100年頃
法句経
パーリ仏典「小部」に伝わる26章423偈の詞華集。心、行い、怠らないこと、非暴力、執着からの自由を、短く記憶に残る言葉で説く。
紀元前200年〜200年頃
バガヴァッド・ギーター
戦場で弓を置いたアルジュナに、御者クリシュナが行為・知識・献身の道を説く、全18章700偈の対話篇。『マハーバーラタ』に組み込まれたインド思想の古典。
170年〜180年頃
自省録
ローマ皇帝マルクス・アウレリウスが、戦争と統治のただ中で自分自身に書きつけた十二巻の思索。感情や評判に振り回されず、理性と共同体への責任に沿って生きるための実践的な言葉が並ぶ。
1048年〜1131年頃
ルバイヤート
ニシャープールの数学者・詩人ウマル・ハイヤームに帰せられる四行詩の連なり。杯と薔薇、陶工の土、庭の月夜を通して、時の短さと生の味わいを歌う。ヴィクトリア朝のフィッツジェラルド英訳が世界に広め、いま現代日本語で読める。
1212年頃
方丈記
行く川の流れに人生と住まいの無常を重ね、大火・辻風・遷都・飢饉・地震に揺れた都を見たのち、日野の山に方丈の庵を結んだ鴨長明の随筆。災害と隠棲の記録が、今を生きるための静かな知恵として残る。
