ChatGPT研究所では、AI時代における「学び方アップデート」を牽引する人と組織を追うインタビュー企画を続けています。

今回お話を伺ったのは、教師不在・学費無料・24 時間開放という前代未聞のエンジニア養成機関 「42 Tokyo(フォーティーツートウキョウ)」 の CTO を務める 矢追良太(nop)さん。

2019年の立ち上げ以来、42 Tokyo には のべ約 3.2 万人 が応募し、現在も約 600名が“学生同士で学び合う”ピアラーニングに没頭しています。

本校である42 Parisは、世界の大学ランキング「WURI 2025」でMITやスタンフォード大学と並び総合3位にランクインするなど、世界的な評価を確立しています。出典 URL

一方、nopさんが代表を務める 株式会社忘我 では、AIがリアルタイムで学習を伴走するプラットフォーム「忘我 LMS」を開発。「人間が“忘我”の境地で没頭できる教育体験」を、オンラインでもオフラインでも実装しようとしています。


いま、AIが“何でも答えを出してくれる”時代に、

1. 人は何を学び、どう基礎を鍛えるべきか?
2. 実践の手触り=“実践知”を、AIとどう掛け算するのか?
3. そして「まだ人間」であり続ける価値は、どこに宿るのか?

エンジニア教育の最前線を走るnopさんに、AI 時代のプログラミング学習と「実践知」の育て方を聞きました。

矢追 良太(@ryaoi42):42 Tokyo CTO / 株式会社忘我 代表取締役

矢追 良太(@ryaoi42):42 Tokyo CTO / 株式会社忘我 代表取締役

フランス発のエンジニア養成機関『42 Paris』でソフトウェアエンジニアリングを学び、2019年に日本初のキャンパス『42 Tokyo』の設立を牽引。DMM亀山会長から直接依頼を受け、立ち上げから5年間で応募者3万人を超える教育機関へと成長させる。

AI時代の新たな学習モデルを提唱し、自ら開発するAI駆動型学習プラットフォーム『忘我LMS』と42 Tokyoの運営を通じて、日本のエンジニア教育のアップデートに奮闘している。

「まだ人間」に込めた希望と自戒

━━ まず、Mediumのプロフィール欄に「まだ人間」と書かれていて気になったのですが、これにはどんな思いが込められているのでしょうか?

https://nop42.medium.com/

良いところに気がつきましたね(笑)。あれは、自分の中でいくつかの思いが込められている言葉なんです。ひとつは、AIに仕事を奪われるんじゃないかって不安な人たちに、「でも人間の良さって残るよ、希望はあるよ」って伝えたい気持ち。

もうひとつは自分への自戒ですね。プロダクトを愛しすぎるあまり、時々AIみたいに冷淡な判断をしちゃう自分に、「いやいや、お前はまだ人間だろ」って(笑)。

━━ 希望と自戒の両方が込められていると。

そうなんです。人間って「無機質なもの」と「有機的なもの」の、ちょうど間にいることを自覚するのが大事だと思ってて。良さも悪さも両方ある。

でも、それこそが人間であることの素晴らしさなんじゃないかなって。「まだ人間」っていうのは、その不完全さも受け入れた上で、「じゃあ自分だけの良さって何だろう?」って試行錯誤するための、決意表明みたいなものですね。

━━ その「まだ人間」として試行錯誤する中で得られる体験が、ご自身の会社名である「忘我」に繋がっているのでしょうか。

はい。自分を忘れてしまうほどの没頭体験ですね。42の文化で「辛楽しい(つらたのしい)」っていう好きな言葉があるんですが、まさにその感覚です。

例えば42には、一定期間内に課題をクリアしないと在籍資格が消滅して強制退学になる「ブラックホール」という仕組みがあるんです。

締め切りに追われながらコードを書く「辛さ」がある。でも、仲間と協力して課題をクリアすると、在籍期間が延長される。その進捗が可視化される「楽しさ」 もある。

その“痛快な苦楽”が一体になった状態が「辛楽しい」で、その先にあるのが「忘我」なんです。

ちなみに、社名を決めるときもAIに類義語を100個くらい出してもらって、人間はその中から1つを選ぶ、というやり方をしました。


学校が嫌いだった僕が、42で「居場所」を得た

━━ nopさんにとって、42とはどんな場所ですか?

ひと言でいうと、初めて「学校を好きになった」場所ですね。正直、もともと学校ってずっと苦手だったんです。先生や親からの「成績を上げろ」みたいなプレッシャーが重くて、生きづらさを感じていました。

大学でようやくプログラミングに出会って「これだ!」と思ったんですが、そこでもモヤモヤしていて。

42 Parisの校舎。nopさんはここで「居場所」を見つけた。出典 URL

━━ どのような点にモヤモヤを?

当時の大学のプログラミング試験って、全部紙でやるんですよ。頭の中でコードを組み立てて、紙に書いて提出するんです。しかも授業は週に1時間だけで、周りの学生は卒業資格が目当てだから、熱量も高くない。

そんな時、友人から「42みたいな環境がいいんじゃない?」って教えられて。教師不在、学費無料、卒業資格もない。最初は「なんでみんな行くの?」って意味が分からなかったです(笑)。

━━ それでも惹かれたのはなぜでしょう?

入学試験のPiscine(ピシン)が、とにかく異常だったんです。

※ Piscine(ピシン):フランス語で「プール」の意。24時間オープンのキャンパスに4週間通いながら、他の受験生と協力し、コーディングの基礎課題に臨む。42の学習文化を体感する場となっている。

週に90時間、ずっと学生同士でプログラミング漬けになる。「頭おかしいじゃん」って思いながらも、そこに集まる人たちの熱量に惹かれて。

大学院で哲学を学んできた人や、40代でマーケティング会社を辞めてきた人…。そんな多様な人たちと四六時中、寝て起きたらすぐプログラミングする環境が、めちゃくちゃ楽しくて。その時に「自分の居場所はここだ」って心の底から思えました。

━━ プレッシャーから解放された、と。

そうなんです。先生がいないから、誰からもプレッシャーをかけられない。学費が無料だから、親から何か言われることもない。何のしがらみもない環境で、ただ「熱い人たちと課題を解決したい」という気持ちだけで動ける。それが本当に心地よかったんです。

━━ 当時通われていたパリと、現在の東京で文化の違いはありますか?

全然違いますね。フランスはいい意味で個人主義。例えば試験前、日本では有志が自主的に対策講座を開いてくれたりします。

フランスではそれはあり得なくて、42では仲間同士で評価し合う制度もあるんですけど、その評価ポイントを稼ぐために「俺に投票してくれ」と書いたTシャツでアピールする学生がいるくらいです(笑)。

日本人は文化的にピアラーニングへの適性を持っていて、お互いに助け合うことが自発的に起きます。42の「一人で速く行くより、みんなで遠くへ」という考え方は、日本文化とすごく相性がいい。仲間を見つけるには、最高の環境だと思います。

42 Tokyo キャンパス 出典URL

AIは「ガチャ」。基礎がなければ100回、あれば10回

━━ 「AIがコードを書いてくれる時代に、もう基礎は要らないのでは?」という声も聞こえてきます。nopさんは、この風潮をどう見ていますか?

めちゃくちゃ聞かれますね。でも僕の答えはずっと同じで、「基礎理解の上にAI活用を乗せる」しかないんです。僕はAIって基本「ガチャ」だと思っていて。

基礎がない人は「百連ガチャ」。当たりが出るまで延々と回し続けるしかない。でも基礎がある人は、AIに正しい文脈(コンテキスト)を渡せるので、「十連ガチャ」で当たりを引けるんです。

【取材協力】

一般社団法人 42 Tokyo:https://42tokyo.jp/
42 Tokyo CTO / 株式会社忘我 代表取締役:矢追 良太(@ryaoi42)さん

本記事を読んで42 Tokyoや 忘我LMS に興味を持たれた方は以下のリンクから詳細を確認いただけます。

▼42 Tokyo
https://42tokyo.jp/
▼忘我LMS
https://lms.bouga.jp/

後編では、AIという「ガチャ」の勝率を上げるための、具体的な学習設計について迫ります。「42式カリキュラム」の設計思想や、満足度100%を記録した企業研修の事例、そして「忘我LMS」の具体的な機能に触れていきます。

AI時代のエンジニア育成にご興味のある方は、ぜひこの先もご覧ください。