2026年3月、AGIラボの「AIエージェント スキル自作ハッカソン 2026」が2週間の開発期間を経て、渋谷で Demo Day を迎えました。

「一度命じたら、あとは任せろ。—最も自律的な AI エージェントを決める2週間」というコンセプトのもと集まったラボメンの中から、Grand Prize を手にしたのは、循環器内科医師として現場に立ちながら「診察に伴走するコメディカルAI」 — clinical-agent-hub(クリニカルエージェントハブ)を開発したしまゆず(@Shimayus)さん 。
AI エージェントと対話しながら自らプロダクトを設計・実装し、Demo Day の頂点に辿り着きました。
医師として日々患者さんと向き合いながら、AGIラボ初の自律エージェント・コンペティションで 18種類ものスキルを束ねた診療支援エージェントを手づくりしてしまう — そんな立ち位置にいる人に、聞きたいことは山ほどあります。
非エンジニアが、なぜ本気の開発勝負で優勝できたのか?
医師としての一次ペインと、AI はどう掛け算できるのか?
作ることが簡単になった時代に、人間は何を問われるのか?
AGIラボ最初期からのコアメンバーでもあるしまゆずさんに、AI 時代の働き方と「スキル自作」という発想の核心 を伺いました。

しまゆず(@Shimayus) さんプロフィール
循環器内科医 / AI 起業家 - 始動 10期 SV 選抜ファイナリスト - AGIラボ最初期からのコアメンバー - clinical-agent-hub 作者(診察伴走型コメディカルAI) - AIエージェントスキル自作ハッカソン 2026 Grand Prize 獲得
循環器内科の現場に立ちながら、GPT-4 登場の頃から3年以上 AI を追いかけてきた非エンジニア出身のバイブコーダー。Replit / Anything / Cursor など主要な AI 開発ツールを横断的に触り、自らの医師としての一次経験を武器に、受付から診察記録・電子カルテ転送までをワンストップ化する AI エージェント「clinical-agent-hub」 を開発。AGIラボのハッカソンで Grand Prize を獲得した。
生粋のバイブコーダー、その原体験
━━ まずは優勝、本当におめでとうございます。AGIラボのスキルハッカソンを制したのは、循環器内科医師と AI 起業家の二足のわらじで活動されている、しまゆずさんでした。
ありがとうございます。日中は循環器内科で患者さんを診て、夜や休日には AI エージェントと一緒にプロダクトを作る……というのが、ここ最近の私の日常です。肩書きとしては医師なんですが、自分の中ではもうバイブコーダーと呼ばれる方がしっくりきます。
━━ バイブコーダー。AI との対話で開発を進めていく人、という意味ですね。しまゆずさんは元々、エンジニアリングの経験はなかったと伺いました。
全くの未経験です。コードなんて一行も書けない状態で、GPT-4 が出てきた頃から AI を追いかけ始めて、もう3年以上になります。その間、Replit、Anything、Cursor と、面白そうなツールは片っ端から触ってきました。
その中でも、特に Claude が Artifacts を出してきたとき は驚きました。会話の中で AI が UI を組み上げていく様子を見て、「あれ、自分、エンジニアじゃないのにアプリが作れてしまうじゃん」と。
あの瞬間が、今の自分の全ての起点になっています。そこから生粋のバイブコーダーとして胸を張って名乗れるようになった気がします。
Clinical Agent Hub — 医師の一次ペインを、プロダクトに変える
━━ 優勝プロダクトについて、もう少し詳しく教えてください。
今回提出したのは Clinical Agent Hub(クリニカルエージェントハブ) というプロダクトで、ひとことで言うと 「診察に伴走するコメディカルAI」 です。受付から診察時の文書作成、電子カルテへの転送まで、一連の医療現場のワークフローをワンストップで完結させる仕組みを目指しました。
たとえば、診察中の会話を録音しておくと、録音停止後に自動で文字起こしが走り、そこから Claude が SOAP ノート(※臨床記録の標準フォーマット)や療養計画書、紹介状といった書類を並列で組み立てていきます。

会話の内容に基づいて必要な文書の該当箇所に自動で反映する、といったこともしています。

━━ どの書類を作るべきかの判断まで、エージェントが担っているのですね。
そこも自動です。患者さんの診断名と、文書の提出期限から 「今この患者さんに、どの書類が、いつまでに必要か」 を判断するエージェントが動いていて、必要なものだけが立ち上がってくる構造になっています。
ただ、期限切れ検知や算定漏れのチェックは、あえて LLM を使わず、ルールエンジンで決定的に走らせている。ここは速度と再現性を優先しました。
もう一つ、強くこだわっているのが 「責任の所在」 です。clinical-agent-hub がいくら書類を作ったとしても、そこでは確定しません 。最終的な法的記録はあくまで電子カルテで、エージェントの出力は、電子カルテに転送された後に医師が確定させる。
「エージェントはワークスペース、電子カルテが法的記録」 — これが、私の中での大原則です。
医師の責任がなくなる設計は、絶対にしてはいけない 。その上で、医師の判断材料を最大限そろえる。
エージェントが作った文書の各記載には、その情報が音声から来たのか、バイタル入力から来たのか、問診から来たのかを色分けで示していて、全ての記載に出典が必ず表示されるようになっている。UI の次元で、信頼性そのものを担保することを徹底しました。
━━ 技術面の工夫も聞かせてください。アプリに「スキルをたくさん組み入れた」と伺いました。
はい。18種類のスキルを組み込んでいて、AI エージェント基盤には Agent SDK(Claude Agent SDK)を使っています。エージェントが患者さんの状況を見て、必要なスキルを Tool Use で自律的に呼び出す設計ですね。
こうすると、機能拡張がすごく楽になります。「新しい疾患の療養計画書に対応させたい」となったら、スキルを一つ追加するだけで、対応する疾患や文書タイプがそのまま拡張される 。開発後の運用を考えたとき、このアーキテクチャがいちばん最適だと判断しました。
一見すると医療 SaaS のようですが、中身は 1つの巨大な AI にすべてを任せるのではなく、役割ごとに切り分けたスキルたちが協調して動く設計です。だからこそ、新しい文書タイプを増やしたければ、そのスキルだけを書き足せばいい。スケールが効くんです。
自分が医者だからこそ痛みの所在がわかり、だからこそ作れたサービスです。ユーザー像を想像で描くのではなく、自分自身が当事者としてペインを知っている。それが一番の強みになったと思います。
作る時間より、考える時間が長い
━━ 開発の中で、一番時間を使った工程はどこでしたか?
仕様を決める部分ですね。GPT Pro、Claude Code、Codex を行き来しながら、「このプロダクトに本当に必要な機能は何か」「逆に、入れてはいけないものは何か」を延々と詰めていきました。それと、Superpowers というスキルを使って計画フェーズにかなり時間をかけています。
━━ Superpowers — obra/superpowers のことですね。実装の前に、AI と一緒に仕事の組み立てそのものを詰めていくような。
そうです。何を、どの順番で、どう作るか。手を動かす前にここを詰め切っておくと、実装フェーズが驚くほどスムーズに進む。結果として、実際に手を動かす時間より、考える時間のほうが圧倒的に長かったですね。
作るのは、もうとても簡単になった。だから今、一番大事なのはなんで私がやるかの部分なんです。
同じものを作れる人は世界中にたくさんいて、AI もいる。その中で、自分がやる必然性はどこにあるのか。そこを詰め切れるかどうかで、勝負が決まる気がしています。今回でいうと、医師である自分がやるという一点にこだわり抜けたから、clinical-agent-hubの輪郭は最後までブレませんでした。
作ると見せるは、同じ重さ
━━ ハッカソンの優勝というと開発力に目が行きがちですが、プレゼンテーションの比重も大きいですよね。
そこは本当にその通りで、今回も見せ方には、開発と同じくらいの労力をかけました 。3分のデモ動画をどう構成するか、何を見せて、何を思い切って削ぐか、最後まで悩みました。
━━ デモ動画はどのように作られたのですか?
Remotion と Claude Code の組み合わせです。Remotion は React で動画が作れるツールで、これを Claude Code に操作させながらデモ動画を組み立てていきました。コードで動画を書くという体験自体、すごく新鮮でしたね。
あと実は、以前にClaude Code ハッカソンに参加した時の経験がすごく生きています。 参加した時のことを note にも書いているんですが、あの時に痛感したのは、「プロダクトの実力=デモの印象」ではないということ。いくら中身が良くても、3分の物語として成立していなければ伝わらない。
デモの設計は、プロダクトそのものと同じくらい神経を使うべき領域だと学びました。あの経験がなかったら、今回の見せ方には辿り着けなかったと思います。
1日をスキル化する — 医師と起業家の二足を成立させる仕組み
━━ 医師と AI 起業家、どう時間が成立しているのか、率直に気になります。
私のおすすめは、全部スキル化することです。私の Claude Code は、まず朝に「今日やることを整理する」ところから1日が始まります。ToDo を棚卸しして、ペース配分を一緒に決める。
そして、60分おきに accountability-check というスキルが自動で起動して、私に「今の進捗どう?」と聞いてくるんです。
━━ え、60分ごとに、自分の作業を宣言する?それは何のためですか?
そうです。このスキルは Obsidian に書いた Todays Plan の Top 3 を読み込んで、そこに照合する形で 1つだけ、具体的な質問を投げてきます。長々と聞かれたら、答える気が失せるんですよ(笑)。だから 1つだけ。そして、応答がなくても責めない 。記録だけして次のチェックを待つ。
人間って、気がつくと関係ないタブを開いていたり、簡単なタスクに逃げていたりするじゃないですか。1時間ごとに自分の状態を申告しないといけないので、横道に逸れづらくなる 。でも強制じゃない。そのバランスが肝だと思っています。
━━ もう一つのスキルは?
executive-coach というスキルで、こちらは 3時間おきに自動起動します。ゴールからズレていないか、モチベーションは保てているか、といった、もう少し深い問いかけを投げてきます。
面白いのは、ただランダムに質問するのではなく、Obsidian に書き溜めた自分の信念のファイルを事前に参照してから問いを立てるところ。いわば信念ベースのコーチングです。
問いのカテゴリは 6種類用意していて、毎回ローテーションで1つだけ選ぶようにしています。
生き生き — 今日一番エネルギーが上がった瞬間は?
先送り — 今、意識的に避けていることは?
信念との整合 — [自分の信念X] と今日の行動は一致してる?
トレードオフ — 今やってることの機会コストは?
10年後 — 今日の選択を10年後の自分はどう評価する?
恐れ — 今一番怖いことは?それをやったらどうなる?
この6つを3時間おきにランダムで投げられると、さすがに自分のことを考えざるを得ない(笑)。
そして、スキル定義の末尾に、大原則として 「説教しない。問うだけ」 と書いています。アドバイスをするのではなく、問うだけ。実質的に、個人コーチを24時間連れて歩いているような感覚です。
━━ それらは全て、ご自身で作られたんですね。
自分の仕事の助けになるスキルは、思いついたら随時作って試しています 。しっくりこなかったら捨てて、効くものは定着させる。サンクコストは気にしない。
参考にしているのは、Dan Koe さんのエッセイですね。自分の働き方を自分で設計し直すという発想は、彼の文章に強く影響を受けています。
※ 今回、しまゆずさんのご厚意を受け、accountability-check.md / executive-coach.md の全文を本記事末尾の付録に掲載させていただきました。
AI は自己拡張、これから問われるのは好奇心
━━ しまゆずさんにとって、AI とは何ですか?
一言で言うと、自己拡張です。
これまでの自分にはできなかったことが、AI を介することでできるようになった。医師である私がアプリを作り、事業を興し、ハッカソンで優勝する — 3年前の私には、一つもできなかったことです。
AI は外付けの道具というよりも、自分の身体や思考の延長のような感覚に近い。
━━ その自己拡張を使いこなすために、これから一番大事になるものは何だと思いますか?
好奇心だと思います。
作ることが簡単になったということは、逆に言えば 「思いつかないと、始まらない」 ということでもあります。昔は、思いついても実装が大変すぎて、多くの人は手前で止まっていた。けれど今は違う。思いつく → 行動のハードルが、劇的に下がったんです。
そして、思いつく力の源泉は、好奇心を持って世界を見ているかどうかだと思っています。
勉強にも AI はフル活用しますけれど、最近はむしろ実践そのものが学びに直結する場面が増えてきた感覚があります。
机上で完璧に学んでから動く、ではなく、まずやってみて、その過程そのものが学びになる 。そこが起点だと思っています。
AGIラボという場、そしてこれから
━━ しまゆずさんは AGIラボの最初期からのコアメンバーでもあります。今回のハッカソンを通じて、改めて感じたことはありますか?
レベルの高い人が、本当に多いということですね。今回2位だった Aino さんもそうですし、Demo Day に並んだ他のチームも、「これ本当にラボメンが2週間で作ったの?」という水準ばかりでした。刺激という言葉では足りないくらいです。
Zenn や note のようなエンジニア向けの情報源もとても優れているのですが、AGIラボは非エンジニアにとっても実践的で助かる場なんです。専門用語に怯まずに、「まず触ってみる」空気がある。私のような、職業も背景も全然違う人間でも、自然に居場所ができるコミュニティだと思っています。
Times チャンネルで他の参加者の進捗や試行錯誤がリアルタイムで見えたのは、本当に良かったです。孤独にならずに済む。
━━ これからの AGIラボに期待することは?
初心者から上級者まで、学び合える場であり続けてほしいです。私自身、ここで得たものは本当に大きい。次は、後から入ってくるラボメンにとっての原体験を一つでも多く作れる側に回りたいと思っています。
未来は読めない、だから面白い
━━ 最後に、しまゆずさんご自身のこれから、聞かせてください。
正直、まだ完全には決まっていないです。
AI 起業家一本で勝負する道も探っていますし、医師を続けながら OpenClaw のようなツールを使って副業的に事業を回していく、という選択肢もあり得る。AI の進化が速すぎて、1年後に自分が何をしているか、正直読めないんです。
今はこの不確実性を楽しんでます。どちらの道を選んでも、やれることは確実に広がっている。まずは、今回作ったプロダクトを、本番環境でリリースすること。ここからは本職のエンジニアの方にも手を借りながら、本物のサービスとして世に出すのが次の目標です。
━━ 優勝はゴールではなく通過点、ということですね。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
付録:しまゆずさんの生活OSを支える2つのスキル
本文で触れた accountability-check と executive-coach の2つのスキルを、しまゆずさんのご厚意で全文掲載させていただきます。いずれも Claude Code と Obsidian を連携させて動かす前提のスキル定義で、/loop 機能を使って自動起動する設計です。

