人を少なく雇う。代わりにCodexのようなAIへ多くのお金を払う。
たしかに10年前とは違います。けれど、サム・アルトマンには、それだけでは「十分に違っている」ように見えません。
彼はYouTubeチャンネル「Relentless」のインタビューで、今日のスタートアップの多くが、驚くほど10年前と同じ形をしていると話しています。通説どおりに会社を作り、通説どおりに人を配置し、そこへAIを足している。AIを使ってはいても、会社そのものは昔のままです。
これはAIツールの使い方を論じた対談ではありません。話題は、スタートアップ、OpenAIの経営、カオス、失敗、インセンティブ、デザイン、仕事の未来へ次々に移ります。それでも全編を通して、一つの問いが残ります。
世界の前提が変わったとき、自分の前提まで変えられるか。
以下は、アルトマンの発言を話題ごとに切り刻んで「成功法則」にしたものではありません。彼が語った具体的な場面をたどりながら、その世界観がどこから来ているのかを考えます。AIの将来像やOpenAIへの評価は、事実ではなく本人の予測や自己評価として扱います。
「Codexをもっと使う」だけで、会社は変わったと言えるか?
アルトマンが最初に挙げたのは、創業から2週間ほどのスタートアップです。
その会社は、文書、プレゼン、スプレッドシートといったオフィスソフトを、AIが「第一級の利用者」になる世界に合わせて丸ごと作り直そうとしていました。少し前なら、スタートアップが1年かけるような仕事に見えたといいます。
速く作れたことだけが重要なのではありません。人間が画面を開き、人間が一つずつ操作するという前提から疑っていたことが重要です。
いまの創業10週目の会社が、10年前の創業10週目と同じ姿なら、かなりまずい。アルトマンはそう見ています。何が作れるかだけでなく、競争力を持つために何をしなければならないかまで変わったからです。
それでも多くの会社は、「業界X向けのAIエージェント」を作る方向へ向かう。それは実際に機能するでしょう。売上にもなるかもしれません。ただし、誰もが見つける簡単な勝ち筋には、当然ながら全員が集まります。
アルトマンが面白いと感じているのは、地面が最も揺れている時代です。コストが落ち、サイクルタイムが短くなり、「難しい会社」の定義そのものが変わっている。大企業が過去の前提を捨てきれない一方で、スタートアップだけが新しい道具一式を持って、まだ名前のないものを作れる。
ところが私たちは、その道具を使って昔の会社を再現しようとします。
人員計画は同じ。会議も承認も同じ。プロダクトの形も同じ。変わったのは、外注費の一部がAIの利用料になったことだけ。それは効率化ではあっても、時代に合わせて会社を作り直したことにはなりません。
なぜ、今月は作れないものを今から始めるのか?
アルトマンは、人、会社、AIモデルを「いまの能力」で評価しません。次に会ったとき、どれだけ伸びているかを見る。何千人もの創業者を見ながら、頭の中でその成長曲線を描いてきたと話します。
その根にあるのが、指数関数への信頼です。
現在のモデルでは賢さが足りない。推論コストが高すぎる。速度が遅い。だから事業にならない。普通なら、そこで候補から外します。
しかしモデルが同じ曲線上を進むなら、「今月は不可能でも、2年後や4年後には可能になる仕事」へ今から取りかかってよい。アルトマンは、モデルの進歩に市場がまだ十分適応していないからこそ、そこには機会が残っていると考えています。
これは未来を無条件に信じる話ではありません。スケーリングが続くという彼の予測が外れれば、賭けも外れます。それでも興味深いのは、現在の制約を永遠の制約として扱わないことです。
ソフトウェアが安くなれば、次は物理世界が価値を持つ。そう聞けばもっともらしい。しかし、ロボットが急速に進歩すれば、その前提も長くは持たないかもしれない。ロケットは難しい、工場は人が建てる、データセンターはデータセンターを増やせない。いま自明に見えることほど、数年後には古い常識になり得ます。
昔のメンタルモデルが間違っていたとは限りません。当時は正しかったものが、いまは大量に間違っている。 ここが厄介です。誤りを認めるだけでなく、かつて自分を成功させた正解を捨てなければならないからです。
未来を読めないのに、どうやって大きく賭けるのか?
意外にも、アルトマンは未来からの逆算を基本にしていません。
未来について強く信じることは、少数だけ持つ。それを向かう方向にして、現在から前向きに考える。「いま何ができるか」「今年は何ができるか」。5年、10年かかるものは長く計画しても、信じていない部分まで固めない。
未来への信念を増やしすぎると、現実を自分の世界観へ押し込むようになります。宇宙企業として始めた会社が、流行を見てAI企業を名乗るようなことが起きる。反対に、何も信じなければ、目の前の需要を追うだけになります。
OpenAIの場合、長く変わらなかったのは「豊富な知能が広く行き渡れば、人類の繁栄につながる」というミッションでした。そのために何が最大の障害になっているかは変わり続けます。研究だった時期もあれば、製品だった時期もある。いまはチップ、電力、データセンター、ロボット、供給網がクリティカルパスに現れている。
ゴールを毎回作り直すのではなく、ゴールまでの最大の障害を見つけ、その障害を潰す。すると次の障害が見える。
この考え方の強さは、壮大な未来図を細部まで当てなくてよいことです。同時に、どこへ行くかを曖昧にしたまま「柔軟性」と呼ぶ逃げも許しません。
カオスに強い人は、何を知っているのか?
会社を殺しかねない問題が初めて起きたとき、世界が終わるように感じる。10回目になると、最初の9回を生き延びたことを思い出せる。
アルトマンは、YCのオフィスアワーで創業者の会社が何年目かを知らなくても、問題を語るときの感情状態で経験年数が分かったといいます。
カオスへの対処は、知識ではなく反復で身につく。「解決法はまだ分からないが、何とかする」と感情の側で信じられるまでには、実際の混乱を何度も通るしかない。
彼はこれを、教えることはできないが、学ぶことはできるものだと表現します。
説明を聞けばショートカットできる能力ではありません。高いストレスがかかる仕事の中で、失敗し、立て直し、また問題が起きる。若い創業者は、その感情的な平静をまだ持たないため、大きな痛みと余計なミスを払って身につけます。
ここでアルトマンは、悪い経験についても変わった見方をしています。
悪い経験の反対は、良い経験ではない。経験がないことだ。
人生に早送りボタンがあれば、退屈な場面も苦しい場面も飛ばしたくなる。しかし最後まで早送りすれば、人生そのものが終わります。悪い日も感情の幅を作る経験であり、「経験がない」よりはるかに豊かだという考えです。
「限界的な状況なら飛行機に乗れ」という助言も、同じ世界観から出ています。行っても行かなくてもよさそうなとき、多くの人は不便さや失敗のリスクを大きく見積もる。アルトマン自身、新生児がいて、2泊するのがひどく不便で、本当に行きたくなかった局面でも飛行機に乗り、結果として行ってよかったと振り返ります。
勇敢に見える人が、恐怖を感じていないわけではありません。恐怖の見積もりを、経験によって少しずつ現実へ近づけているのかもしれません。
なぜ、失敗より「成功しているもの」を止める方が難しいのか?
うまくいかず、試せるアイデアも尽きた仕事は止めやすい。OpenAIの歴史で難しかったのは、一つがうまくいき始めたとき、ほかの「良いもの」を止めることでした。
GPT-3が動き始めたときには、チームが強く期待していたロボティクスなどを閉じて集中した。コーディングエージェントが伸び始めたときには、同じく期待していたSoraやブラウザの取り組みから資源を移した。アルトマンによれば、Soraは失敗したのではなく、大きな成功になり得た。それでも、コンピュートとエネルギーをコーディングへ向ける方が重要だと判断したのです。
もちろん、これはOpenAI CEOによる社内判断の説明であり、各製品の現在の提供状況や客観的な優劣を示すものではありません。
注目したいのは、こうした決断が一度の会議で鮮やかに決まるわけではないことです。
1年以上、資金も人もコンピュートも投じた。利用者がいて、愛され、勢いもある。それでも「この資源には、もっと重要な使い道がある」という気づきが、時間をかけて形になっていく。担当者は不幸になる。それでもミッションと賭け金を理解していれば、なぜ方向を変えるのかまでは共有できる。
集中とは、やることを一つ決める瞬間ではありません。それ以外の、うまくいっているものを手放す痛みのことです。
大きな構想があるのに、なぜ仕事は泥くさいままなのか?
知能が知能を生み出す。データセンターがロボットを動かし、さらに多くのデータセンターを作る。構想だけを聞けば、壮大なSFのようです。
ところがアルトマンは、その未来を考える時間をほとんど使っていないといいます。アイデア自体は明白で、必要な部品も比較的すぐ列挙できる。時間を使うのは、資金を集め、チップを設計し、研究チームと接続し、供給網を動かし、関係する企業すべてに協働してもらうことです。
そこには「大きなアイデア」の栄光はない。あるのは、ひたすら泥くさい作業です。
たとえばNVIDIAのJensen Huangは、サプライヤーを自分の未来像へ揃えるのが非常に上手いとアルトマンは評します。タービンやチップの納期を伝えるだけでは、相手には相手の優先順位があります。なぜその未来が来るのか、次のモデルが何を可能にするのか、なぜ自分たちを優先する意味があるのかを何度も話す。可能なら、相手のインセンティブまで同じ方向へ揃える。
アルトマンが産業革命を振り返って、重要な発明として「株式会社」を挙げるのもそのためです。技術そのものだけでなく、互いを知らない大人数の資本と目的を揃え、家族経営を超えた挑戦を可能にした仕組みだった。これは彼の歴史観ですが、巨大なことを実現するには、アイデアより人の利害を揃える仕組みが要るという経営観は一貫しています。
AIは案を大量に出せます。だから案を出したことは、以前ほど仕事の証明になりません。どの問題を解くのかを見極め、人と資源を揃え、現実の中で最後まで動かす。知能が安くなるほど、この泥くさい部分が前に出てきます。
Jony Iveから、なぜ「答えを急ぐな」と学んだのか?
世界を見渡せば、公園にベンチを一つ設置することさえ驚くほど難しい。John Collisonのその言葉を引きながら、インタビューでは世界を「情熱プロジェクトの宇宙」と見る話が出てきます。
誰かが強く望み、細部を詰め、反対や制約を越えたから、目の前のものは存在している。10億人が毎日何時間も触れる製品なら、その責任はさらに大きくなります。
アルトマンは、自分をデザイナーだとは考えていません。ビジネスを作る能力の中でも、プロダクトは自分の弱い部分かもしれないと話します。その彼がJony Iveから学んだのは、デザインの答えではなく、答えを考え始める前に何をするかでした。
Jony Iveは、問題を本当に理解するまで、解決策について考えすぎない。
たとえば車を考えるなら、モータースポーツの歴史をたどる。車内の文字に使われてきた書体を調べる。素材が選ばれた理由を知る。時代ごとのエンジン音を聞き、なぜ人はその音に惹かれたのかを考える。そうした細かな構成要素の探索を、文字どおり一冊の本にするというのです。
普通は、調査はアイデアを正当化するために行われます。先に作りたいものがあり、都合のよい事実を集める。Jony Iveの順番は逆です。まだ答えを持たないまま、問題の歴史、感触、音、言葉の中へ入り、十分に理解してから形を考え始めます。
アルトマンが興味深いのは、分からない部分まで正直に話していることです。
徹底的に調べる工程は分かる。生まれたコンセプトを美しい製品へ磨く工程も分かる。しかし、問題を深く理解した状態から、誰も見たことのないアイデアへ飛ぶ中間の瞬間だけは分からない。Jony Iveの中では、その飛躍が一気に起きるように見えるといいます。
ここを無理に「発想法5ステップ」へ変えない方がいいのでしょう。
アルトマンは別の場面で、世の中には「教えられないが、学ぶことはできる」能力があると話しています。説明を求めても、本人にとって自然すぎる技能はうまく言葉にならない。そういうときは、その人のそばにいて、会議に同席し、判断する場面を観察する。ゲームの上級者から学ぶように、局面ごとの動きを見て自分でパターンをつかむしかない。
Jony Iveとの仕事から得たのは、完成品の美しさだけではありません。優れた人が、まだ答えのない問題とどう過ごしているかを間近で見ることも学びだったのです。
この話は、AIを使うほど重要になります。
AIへ問題を渡せば、すぐに整った答えが返ります。その速さは便利ですが、最初に出た答えへ自分を縛る危険もあります。Jony Iveの方法に沿うなら、AIへ最初に求めるのは完成案ではありません。その領域がどう生まれ、何が愛され、何が嫌われ、素材や言葉や習慣がなぜその形になったのかを、深く調べるために使うべきです。
そして、優れた製品なら無条件に人を幸せにするわけでもありません。
アルトマンはiPhoneを、人類が集団で作った最高のテクノロジーだと評価する一方、自分とiPhoneの関係は好きではなくなったとも話します。ほぼすべての通知を切ると、生活が大きく改善した。Soraを考えるためにTikTokを使い始めたときは、最初は寝る前の10分を制御できていると思ったのに、ある土曜日にはソファで3時間を失い、最終的にアプリを削除したといいます。
美しく、役に立ち、人を力づける製品でも、強力であるほど誤用され、人の生活を悪くする可能性がある。デザインの仕事は、使いたくなるものを作ったところで終わりません。人がそれを使い続けた先で、どんな生活になるのかまで想像することが必要です。
本物のトレンドは、数字ではなく何を変えるのか?
アルトマンは、偽物のトレンドとしてVRを挙げます。大きな期待を集め、買われても、生活はその体験を中心に組み替えられない。やがて機器は棚に置かれます。
対照的に、ChatGPTは仕事が多い日に3時間使い、ほとんど使わない日があっても、生活の中に持続的に存在する。賛否やニュースの量ではなく、人が本当に愛し、行動を変え、使い続けているかを見るということです。
ChatGPTの公開直後にも、その見方が表れました。
初日は利用が上がり、午後に下がる。2日目には前日より高い山を作り、また下がる。3日目にはさらに高い山になる。研究者たちは「PRによる一発の波だ」と見ていましたが、YCで多くのスタートアップを見てきたアルトマンには、自然に伸びるサービス特有の形に見えた。5日目に100万人を超えたとき、OpenAIが研究所から急速に大企業へ変わることを実感したといいます。
喜びより先に来たのは、静かな生活が大砲へ撃ち込まれるように終わる、という感覚でした。
本物の波は、成功を穏やかに知らせてくれるとは限りません。会社の形も、経営者の生活も、利用者の習慣も変えてしまいます。数字が大きいから本物なのではなく、元の場所へ戻れない変化を起こすから本物なのです。
Codexの話は、「諦めなければ勝てる」という精神論なのか?
インタビューには、Codexについての率直な振り返りもあります。
当時、OpenAIはClaude Codeに大きく遅れていた。すでに勢いを持つ競合へ追いつこうとするのは、通説では「愚か者の使い」であり、成功しない無謀なミッションに見えたとアルトマンは話します。
それでもチームに頼んだのは、コーディングが単なる製品カテゴリーではなかったからです。経済的価値が大きいだけでなく、AIがAI開発を進める再帰的な改善にとって戦略上きわめて重要で、撤退できない領域だと考えた。
彼は現在のCodexを高く評価していますが、これはOpenAI CEOによる自社製品の評価です。Claude Codeとの客観的な優劣を示す証拠ではありません。
この話を「諦めなければ何でも勝てる」と読むと、肝心な部分を失います。すべての競争に残ったのではない。Soraやブラウザからは資源を移している。Codexに賭けたのは、難しくても失えばミッションそのものが遠のく領域だったからです。
粘るべきか、降りるべきか。その境界を、勝てそうかどうかだけで決めていません。
AIが多くを引き受けても、人間は暇にならないのか?
AIが仕事を速くすれば、人は暇になる。技術は長くそう約束してきました。
アルトマンの周囲では、AIを使って暇になった人は一人もいないそうです。みな以前より忙しく、以前より多くのことをしています。膨大なトークンを使ったと自慢した人に、別の誰かが「では、なぜもっと成功していないのか」と返した話も出てきます。
消費したトークンの量は、前進した距離ではありません。
彼は、スーパーインテリジェンス後にも素晴らしい仕事と知的な充足は残り、多くの仕事は適応すると見ています。ただし、数学のようにそうならない可能性がある領域は、注意深く見なければならないとも話しています。未来の雇用を楽観だけで片づけてはいません。
そして、機械が多くをできるほど、人が価値を置くものは「非常に人間的なもの」になると考えています。
ロボットが完璧に料理できるようになっても、誰かのために料理をし、一緒に食べることは残る。料理の経済的な生産性ではなく、時間を使って愛情を示したことに価値があるからです。
AIが答えを作り、ロボットが手を動かせる世界でも、人間は何かを望み、誰かに役立とうとし、新しいゲームを作り、また忙しくなる。その予測が正しいかはまだ分かりません。ただ、「能力が増えれば欲望も期待も増える」という人間観は、このインタビュー全体を理解する鍵になっています。
では、あなたはどのメンタルモデルを捨てるのか?
アルトマンの話を、OpenAIという特殊な会社の特殊な経営論として読むこともできます。実際、巨大な計算資源を持つ企業の判断を、そのまま小さな会社へ移すことはできません。
それでも、最後に残る問いは身近です。
- 10年前と同じ会社に、AIを足しただけになっていないか
- いまのAIではなく、2年後や4年後の能力を前提にすれば、何に取りかかるか
- 未来について、本当に強く信じていることは何か。それ以外まで固定していないか
- いま最も大きな障害は何か。別の仕事で忙しくして、そこから逃げていないか
- うまくいっているから続けているだけで、もっと重要な使い道を奪っているものはないか
- 話題になっているものではなく、人の生活を元へ戻れないほど変えているものは何か
この問いに、きれいな答えは必要ありません。
OpenAIも創業初日から何をすべきか分かっていたわけではありません。Greg Brockmanのアパートに10人ほどが集まり、ホワイトボードを買い、「自分たちは何をしてしまったのだろう」と感じたところから始まった。何をする組織なのかをつかむまで、数年かかったとアルトマンは振り返ります。
確信がある人は、最初から迷わない人ではありません。
少数のことだけは手放さず、それ以外については、自分の正解が古くなったと認められる人です。地面が揺れているときに、昔の地図をきれいに描き直すのではなく、いま立っている場所そのものを確かめ直せる人です。
出典
本稿は上記インタビューと英語自動字幕を照合し、発言の逐語訳ではなく要旨を日本語で再構成したものです。

