0101
四行詩集
第1歌
目を覚ませ。太陽が夜の野から 星々を追い散らし、闇もろとも 天の彼方へ追い立てながら 王の塔を光の矢で射抜いている。
第2歌
偽りの暁の幻が消える前、 酒場の奥から声がした。 「内なる神殿の支度はすべて整った。 それなのに、外で居眠りしているのは誰だ」
第3歌
鶏が鳴くと、酒場の前の人々が叫んだ。 「さあ、扉を開けてくれ。 ここにいられる時間はわずかだ。 ひとたび去れば、もう戻れないのだから」
第4歌
新しい年が昔の望みを呼び覚まし、 思い深い魂は静けさへ退いてゆく。 枝にはモーセの白い手が芽吹き、 土の底からイエスの息が立ちのぼる。
第5歌
イラムの園は、薔薇もろとも消えた。 ジャムシードの七重の杯も行方は知れない。 それでも葡萄には紅玉の火がともり、 水辺ではいくつもの庭が花ひらく。
第6歌
ダビデの唇はもう閉ざされた。けれど 古いペルシアの澄みきった高音で、 「酒を、赤い酒を」と夜鶯が薔薇に歌う。 その青ざめた頬を紅く染めよ、と。
第7歌
さあ、杯を満たせ。春の炎へ 冬のあいだ着ていた悔いの衣を投げ込め。 時という鳥が羽ばたける道は短い。 しかもその鳥は、もう飛び立っている。
第8歌
ニーシャープールにいようと、バビロンにいようと、 杯の中身が甘かろうと苦かろうと、 命の酒は一滴ずつこぼれ、 命の葉は一枚ずつ散ってゆく。
第9歌
朝ごとに千の薔薇が咲く、と君は言う。 では昨日の薔薇は、どこへ行った。 薔薇を連れてくる初夏のこの月は、 ジャムシードもカイコバードも連れ去る。
第10歌
連れ去るなら、そうさせればいい。 大王カイコバードもカイホスローも、私たちに何の用がある。 ザールとロスタムには好きなだけ威張らせ、 ハーテムが宴に呼んでも、気にするな。
第11歌
私と来ないか。砂漠と畑を分ける、 草の細道を歩いてゆこう。 そこでは奴隷も王も、その名を忘れられる。 黄金の玉座のマフムードには、どうぞ安らぎを。
第12歌
木陰に一冊の詩集、 酒を満たした壺と、ひとかけのパン。 そして荒野で隣に座り、歌う君。 それだけで荒野は、もう充分な楽園だ。
第13歌
ある者はこの世の栄華を求め、 ある者は預言者の約束した楽園を恋しがる。 今ここにあるものを取れ。先の約束は手放せ。 遠くで鳴る太鼓の音など気にするな。
第14歌
ほら、あたりに咲く薔薇を見よ。 「私は笑いながら、この世に花ひらく。 絹の財布の房をひと思いに引き裂いて、 中の宝を庭いっぱいにまくの」と語っている。
第15歌
黄金を大切に蓄えた者も、 雨のように惜しげなくまいた者も、 ついには同じ土となる。埋めたあとで 人が掘り返したがるほど黄金の土にはならない。
第16歌
人が心を預けるこの世の望みは、 灰になる。たとえかなっても、すぐに消える。 砂漠の埃っぽい顔に降りて 一、二時間だけ輝く雪のように。
第17歌
考えてみよ。この傷んだ隊商宿では、 夜と昼が交互に門を開く。 王は代わる代わる、きらびやかに泊まり、 定められたひと時を過ごして去っていった。
第18歌
ジャムシードが栄え、酒を酌んだ宮には、 今は獅子と蜥蜴が棲むという。 偉大な狩人バハラームの頭上では野ろばが地を踏む。 それでも彼の眠りを破ることはできない。
第19歌
ときどき思う。薔薇がひときわ紅いのは、 埋もれた帝王が血を流した場所なのだ、と。 庭がまとうヒヤシンスの一つ一つも、 かつて美しかった頭から、その膝へ落ちたのだ、と。
第20歌
私たちが寄りかかる川岸を、 よみがえった若草がやわらかく縁取っている。 そっと寄りかかろう。誰にわかるだろう、 それがどんな美しい唇から芽吹いたのか。
第21歌
愛する人よ、杯を満たしてくれ。 過ぎた悔いと、先の恐れを、今日から洗い流す杯を。 明日には、そう、明日には私も 過ぎ去った七千年の仲間かもしれない。
第22歌
私たちが愛した人々、なかでも最も美しく善い人々は、 巡る時が、その実りから搾り出した者たち。 私たちより一、二巡早く杯を飲み、 一人また一人と、静かに眠りへ入った。
第23歌
彼らが去った部屋で、私たちは今も浮かれ、 夏はまた新しい花の衣をまとう。 だが私たちも、いつか大地の寝台へ降り、 今度は誰かの寝床になるのだろう。
第24歌
まだ使える時を、惜しまず使おう。 私たちも塵へ降りてゆく、その前に。 塵から塵へ、塵の下に横たわれば、 酒も歌も歌い手もなく、終わりさえない。
第25歌
今日のために備える者にも、 いつかの明日を見つめる者にも、 闇の塔から礼拝を告げる声が響く。 「愚か者よ、褒美はここにも、あそこにもない」
第26歌
この世とあの世を賢しげに論じた 聖者も賢者も、いまは外へ押し出された。 愚かな預言者の言葉のように、教えは嘲りの中へ散り、 その口は塵で塞がれている。
第27歌
若いころ、私は熱心に 学者や聖者を訪ね、大議論に耳を傾けた。 あれについても、これについても。だがいつも、 入ったのと同じ扉から出てきただけだった。
第28歌
彼らとともに知恵の種をまき、 この手で育てようと励んだ。 けれど収穫できたのは、ただこれだけ。 「私は水のように来て、風のように去る」
第29歌
なぜとも知らず、どこからとも知らず、 水のように否応なく、この宇宙へ流れ込んだ。 どこへとも知らず、荒野を渡る風のように、 私は否応なく、ここから吹き去ってゆく。
第30歌
頼みもしないのに、どこからここへ急き立てられた。 頼みもしないのに、ここからどこへ追いやられる。 なんという勝手だ。その記憶を沈めるには、 禁じられた酒を何杯もあおらねばならない。
第31歌
地の中心から七つの門を抜けて昇り、 土星の玉座にまで座った。 道すがら、いくつもの結び目をほどいた。 それでも人の運命を束ねる大結びは、ほどけなかった。
第32歌
扉はあったが、合う鍵がなかった。 幕はあったが、その向こうは見えなかった。 しばらくは、私とあなたの言葉が交わされた。 やがて、あなたも私もいなくなった。
第33歌
大地は答えなかった。主を失い、 紫に流れながら嘆く海も答えなかった。 めぐる天も答えない。そこにある徴は、 夜と朝の袖に見え隠れするばかり。
第34歌
幕の裏で働く、私の内なるあなたに向かい、 闇の中の灯を求めて両手を上げた。 すると外から来るように、声がした。 「あなたの内なる私こそ、あなたの目を塞いでいる」
第35歌
この哀れな土の壺の口へ身を寄せ、 命の秘密を聞き出そうとした。 唇を重ねると、壺はささやいた。 「生きているうちに飲め。死ねば二度と戻れない」
第36歌
束の間の言葉で答えたあの器も、 かつては生き、酒を飲んだのだろう。 私が口づけた、されるがままのその縁は、 これまで幾つの口づけを受け、返したことだろう。
第37歌
道の途中で足を止め、陶工が 濡れた土を打つのを眺めたことがある。 消し去られた舌で、その土はつぶやいた。 「兄弟よ、どうか、もう少しやさしく」
第38歌
そんな物語が、はるかな昔から 人の世代をつたい、流れ続けてきたのではないか。 水を含んだ土くれを造り手が取り、 人の形へ押し込めたという物語が。
第39歌
私たちの杯から大地へこぼす一滴も、 土の奥へひそかに染みてゆくのかもしれない。 はるか昔、深いところに隠された誰かの目から、 苦しみの火を消すために。
第40歌
チューリップが朝の一杯を求め、 天の酒を仰いで土から顔を上げるように、 あなたも敬う心で杯を上げよ。天がいつか、 空の杯のようにあなたを地へ伏せるまで。
第41歌
人のことにも神のことにも、もう悩むな。 明日のもつれは風に渡せ。 そして糸杉のように細い酒注ぎの髪へ、 その指を深く迷わせればいい。
第42歌
飲む酒も、重ねる唇も、 すべてが始まり終わるところへ帰るのなら、それでいい。 今日のあなたは、昨日もあなたであった。 明日もそれに劣ることはないと思えばいい。
第43歌
いつか暗い酒を注ぐ天使が 川辺のあなたを見つけ、杯を差し出し、 魂を唇まで招いて飲ませようとしても、 あなたは身を引かずに受けるだろう。
第44歌
もし魂が塵を振り払い、 裸のまま天の風に乗れるのなら、 この土の骸に足を取られたまま留まるのは、 なんと恥ずかしいことではないか。
第45歌
この身は、死の国へ向かう王が 一日だけ休むための天幕にすぎない。 王が立てば、黒衣の幕番が天幕を畳み、 次の客のためにまた支度する。
第46歌
存在があなたと私の勘定を閉じても、 私たちのような者が絶えると恐れるな。 永遠の酒注ぎは、あの鉢から 私たちに似た泡を幾百万も注ぎ、これからも注ぐ。
第47歌
あなたと私が幕の向こうへ去ったあとも、 世界は気の遠くなるほど長く続く。 私たちが来たことも去ったことも、世界は気にしない。 海が投げ込まれた小石を気にしないように。
第48歌
ほんのひと休み。荒野の井戸から 存在という水を、ほんのひと口。 見よ、幻の隊商は、出てきた無へもう着いてしまった。 さあ、急ごう。
第49歌
このきらめく命を秘密探しに使うなら、 友よ、急いだほうがいい。 偽りと真実を分けるのは、髪一本かもしれない。 そして命も、その一本に懸かっているのかもしれない。
第50歌
偽りと真実のあいだは、髪一本。 そう、たった一つの文字が手がかりかもしれない。 それを見つけさえすれば、宝の蔵へ、 ひょっとすれば、その主のもとへも行けるだろう。
第51歌
その隠れた気配は、創造の血管を 水銀のように走り、追う者の手をすり抜ける。 月から海の魚まで、あらゆる姿をまとい、 姿は変わり滅びても、その方だけは残る。
第52歌
一瞬だけ見えたと思えば、また幕の裏。 芝居を包む闇へ沈んでしまう。 永遠の暇つぶしのため、その方は自ら 筋を考え、演じ、そして眺めている。
第53歌
頑なな大地の床を見下ろしても、 開かない天の扉を見上げても、今日、答えはない。 まだあなたがあなたである今でさえ、そうなのだ。 明日、あなたがもういなくなれば、どうなる。
第54歌
限られた時を無駄にするな。 あれこれ空しく追い、争うことに費やすな。 実らぬ果実や苦い果実を求めて沈むより、 豊かに実る葡萄と楽しく過ごすほうがいい。
第55歌
友よ、知っているだろう。私は盛大な酒宴を開き、 この家で二度目の結婚をした。 実を結ばない古女房の理性を寝床から追い出し、 葡萄の娘を新しい妻に迎えたのだ。
第56歌
「ある」と「ない」を定規と線で測り、 「上」と「下」を論理で定めてみても、 本当に究めたいと思ったもののうち、私が 深くまで知ったのは、酒だけだった。
第57歌
私の計算で一年をもっと正しくした、と 人は言う。いや、そうではない。 暦から消したのは、まだ生まれない明日と、 すでに死んだ昨日だけだった。
第58歌
つい先ごろ、開いた酒場の扉から、 夕闇を抜けて、天使の姿が輝き出た。 肩には一つの器を担いでいた。 味わえと言われた中身は、葡萄だった。
第59歌
葡萄なら、揺るぎない論理をもって 争い合う七十二の宗派を言い負かせる。 それは至高の錬金術師。たちまち 鉛のような命を黄金へ変えてしまう。
第60歌
葡萄は、神の息を帯びた覇王マフムード。 魂に巣くう不信の黒い軍勢、 恐れと悲しみの群れを、 つむじ風の剣でことごとく追い散らす。
第61歌
この果汁が神の育てたものなら、誰が 絡み合う葡萄の蔓を罠だと罵れる。 祝福なら、受け取って使えばいい。 呪いなら、いったい誰がここへ植えたのだ。
第62歌
人づてに聞いただけの死後の勘定を恐れ、 もっと神聖な飲み物があるという望みに誘われて、 私は命の妙薬を捨てねばならないのか。 塵になってから、杯を満たすために。
第63歌
地獄の脅し、楽園の望み。 少なくとも一つ確かなのは、この命が飛び去ること。 確かなのはそれだけで、ほかはみな偽り。 一度咲いた花は、いつか必ず枯れる。
第64歌
不思議ではないか。私たちより先に 幾万もの人が闇の扉をくぐったのに、 道を教えに戻った者は一人もいない。 私たちも、自分で知るために歩くしかないのだ。
第65歌
敬虔な者や学者が、私たちより先に立ち、 預言者のように燃えながら語った啓示も、ただの物語。 眠りから覚めた彼らが仲間に夢を話し、 また眠りへ戻っていった、それだけのこと。
第66歌
死後の世界から何か一文字でも読もうと、 魂を目に見えない場所へ送り出した。 やがて帰ってきた魂は、私に答えた。 「天国も地獄も、この私自身だ」
第67歌
天国は、かなえられた望みが見せる幻。 地獄は、燃える魂が落とす影。 私たちがつい先ほど現れ、ほどなく消えてゆく あの闇の上に、どちらも映っている。
第68歌
私たちは、現れては消える 魔法の影絵の列にすぎない。 真夜中、芝居の主が掲げる 太陽を灯した大きな幻灯のまわりを巡っている。
第69歌
私たちは、あの方が夜と昼の盤で遊ぶ 抗う力のない駒にすぎない。 こちらへ、あちらへ動かされ、追い詰められ、倒され、 一つずつ、また箱へしまわれてゆく。
第70歌
球は、行くか行かぬかを問いはしない。 打つ者のまま、こちらへもあちらへも転がる。 あなたを競技場へ投げ入れた方なら、 すべてを知っている。知っているのだ。
第71歌
動く指は書き記し、書けば先へ進む。 どれほど信心深くても、賢くても、 呼び戻して半行さえ消すことはできない。 どれほど泣いても、一語さえ洗い流せない。
第72歌
空と呼ばれる、あの伏せた鉢。 その下に閉じ込められ、私たちは這い、生き、死ぬ。 助けを求めて、空へ両手を上げるな。 空もあなたや私と同じく、なすすべなく巡るだけだ。
第73歌
大地の最初の土で、最後の人まで練り上げられ、 そこには最後の収穫の種までまかれていた。 創造の最初の朝は、すでに書き終えていたのだ。 裁きの最後の夜明けが読み上げることを。
第74歌
昨日が、今日の狂騒を用意した。 明日には沈黙か、勝利か、絶望が待つ。 飲め。どこから、なぜ来たのか、あなたは知らない。 飲め。なぜ、どこへ去るのかも知らないのだから。
第75歌
これだけは言える。天の若駒が炎の肩を躍らせ、 すばると木星が出発点から投げ出されたとき、 塵と魂からなる私の持ち場にも、 すでに運命の筋書きが刻まれていた。
第76歌
そこには葡萄の根が一本、食い込んでいた。 その根が私の存在に絡むなら、修行者には笑わせておけ。 私という粗末な金属からでも、鍵が一つ 削り出され、彼が外でわめく扉を開けるかもしれない。
第77歌
これだけはわかる。唯一の真の光が 愛をともそうと、怒りで私を焼き尽くそうと、 酒場でそのひらめきを一度つかむほうが、 神殿で完全に見失うよりいい。
第78歌
感覚のない無から、意識ある者を呼び起こし、 許されない快楽の束縛に憤らせるとは。 しかも、ひとたび禁を破れば 永遠の罰を受けさせるとは。
第79歌
無力な被造物に、不純物まじりで貸したものを 純金にして返せと求めるのか。 本人が結びもせず、払いようもない借りを取り立てる。 なんとひどい取引だろう。
第80歌
あなたは、私が歩くはずの道に 落とし穴と罠を仕掛けた方。 定められた悪で私をからめ捕っておきながら、 その転落を私の罪にはしないはずだ。
第81歌
あなたは人を粗末な土から造り、 楽園にさえ蛇を忍ばせた方。 人の顔を汚したすべての罪を赦してほしい。 そして人からの赦しも、受け取ってほしい。
第82歌
暮れてゆく日の陰に隠れ、 飢えた断食月がこっそり去ったころ、 私はまた一人、陶工の家に立ち、 土でできたさまざまな姿に囲まれていた。
第83歌
大きなもの、小さなもの、形もさまざまな器が、 床にも壁際にもずらりと立っていた。 よくしゃべる器もあれば、 聞いてはいても、ひと言も話さない器もあった。
第84歌
その一つが言った。「まさか、意味もなく ありふれた土から私の土を取り、 この姿に作ったのではあるまい。壊すため、 踏みつけて形のない土へ戻すためだけに」
第85歌
二つ目が言った。「気まぐれな子どもでも、 喜んで飲んだ鉢を割りはしない。 まして自らの手で器を作った方が、あとになって 腹を立て、それを壊すはずはないだろう」
第86歌
短い沈黙のあと、 ひどく不格好な器が口を開いた。 「傾いていると、みんな私を笑う。 それなら陶工の手が震えたのではないか」
第87歌
すると、おしゃべりな一団の一つ、 たぶん神秘家の小壺が熱くなって言った。 「壺だ陶工だと騒ぐけれど、教えてくれ。 いったい誰が陶工で、誰が壺なのだ」
第88歌
別の器が言った。「できの悪い壺は 地獄へ投げる、と脅す方がいるそうだ。 自分で作り損ねておいてだ。まさか。 あの方は気のいい人さ。すべてうまくいく」
第89歌
「まあ」と一つがつぶやいた。「誰が作り、誰が買うにせよ、 長い忘却のせいで、私の土は乾ききった。 けれど昔なじみの酒を満たしてくれれば、 そのうち元気を取り戻せる気がする」
第90歌
器たちが順番に話していると、 皆が待っていた細い月が中をのぞいた。 すると互いを小突き合う。「兄弟、兄弟、 運び手の肩で、縄がきしみ始めるぞ」
第91歌
消えかかる私の命を葡萄で養い、 命の去った体を葡萄の酒で洗ってほしい。 生きた葡萄の葉を死装束にし、 人通りの絶えない庭のほとりへ葬ってほしい。
第92歌
そうすれば埋められた灰からさえ、 古酒の香りの罠が空へ立ちのぼる。 通りかかった敬虔な信徒も、 気づかぬうちに、きっと捕らえられるほどに。
第93歌
長く愛してきた偶像たちのせいで、 この世での私の信用はずいぶん傷ついた。 栄光は浅い杯に沈められ、 名声は一曲の歌と引き換えに売られた。
第94歌
本当に、これまで何度も悔い改めを誓った。 だが誓ったとき、私はしらふだっただろうか。 やがて春が薔薇を手にやって来て、 擦り切れた私の改心を、ずたずたに裂いた。
第95歌
酒は不信心なふるまいを重ね、 私から名誉の衣まで奪った。だが思うのだ。 酒屋はいったい何を買えるだろう、 自分が売るものの半分ほどにも尊いものを。
第96歌
ああ、春は薔薇とともに消えてしまう。 若さという香り高い書物も閉じてしまう。 枝で歌っていた夜鶯は、 どこから来て、またどこへ飛び去ったのだろう。
第97歌
この砂漠が、泉のありかを かすかにでも、本当に見せてくれたなら。 力尽きた旅人はそこへ駆け寄るだろう。 踏まれた草が、水を得て跳ね起きるように。
第98歌
手遅れになる前に、翼ある天使が まだ開ききらない運命の巻物を止めてくれたなら。 厳しい記録者に命じ、違う言葉で 書き直させるか、すべて消させてくれたなら。
第99歌
愛する人よ。あなたと私があの方と手を組み、 この哀れな世界の仕組みを丸ごとつかめたなら、 きっと粉々に打ち砕くだろう。そしてもう一度、 心の望みにもっと近い形へ作り直すだろう。
第100歌
昇るあの月が、また私たちを探している。 これから何度、満ちては欠けることだろう。 これから何度、この同じ庭を昇りながら 私たちを探し、その一人を見つけられずにいるだろう。
第101歌
酒を注ぐ人よ。いつか月のように、 草の上に星と散る客たちのあいだを巡り、 喜びの務めの途中、私も座っていた場所へ来たら、 そこに空の杯を一つ、伏せてくれ。
