AIは、開発現場における「インフラ」となりつつある。

2025年6月6日、株式会社メルカリのオフィスで「Cursor Meetup Tokyo」が開催されました。

申込サイトが一時ダウンするほどの注目を集め、当日はオフラインで200名、オンラインでは6000名を超える応募が集まり、会場は高い熱気に包まれました。

本記事では、このミートアップで語られたAI開発の最前線をレポートします!

登壇者はこの豪華メンバー

今回のミートアップを盛り上げたのは、日本のAI開発シーンを牽引する、以下のスピーカーたちです。(順不同)

  • グンタさん(株式会社サイバーエージェント)

  • Kinopeeさん(Cursor アンバサダー)


セッション・ハイライト:現場で語られた「生の声」と「実践録」

まずは、株式会社EXPLAZAのみやっちさんによる、「Cursorはエンジニアのツール」という固定観念を、いい意味で裏切ってくれたセッションから。

みやっちさんが語るCursorの本質は「AI付きメモ帳」だ、と。

要するに、AI付きメモ帳じゃないですか。ただただのメモ帳があって、そこの横にAIがあって。一時チャット(GPT)を開かなくてもすぐにアクセスできるっていう、ただ便利なツールみたいな。(みやっちさん)

わざわざブラウザを開いて「さて、AI使うか」と意気込むんじゃなくて、いつも使ってるエディタに当たり前のようにAIがいる。この感覚が重要なんです。

そして、その応用範囲の広さを示す事例が「夢小説ワークショップ」です。

普通の女の子がめちゃめちゃ使えるみたいな。もう最初何も使えなかったのに、帰りにはもう全員使えるようになってたみたいな状況が発生して。(みやっちさん)

「やりたい!」という強い思いさえあれば、スキルなんて関係ない。Cursorが、誰もがクリエイターになれる時代の到来を実感させてくれる、象徴的なエピソードでした。

みやっちさんの登壇資料はこちら:

https://www.docswell.com/s/miyatti/KJ4DXM-2025-06-06-193814



続いて登壇した東京大学の小井土大さんは、AIの「光」だけでなく「影」の部分、つまり「制約」について重要な問題を提起してくれました。

うっかり個人情報をAPIに流した瞬間、人生が終わる。(小井土さん)

私たちが普段、何気なくAIに投げている情報。もしそれが、絶対に外に出してはいけないものだったら…?Cursorを含む多くのAIサービスが海外にサーバーを置いていることを考えると、これは決して他人事ではありません。

もし(データが)海外にいって、データがLLMの学習に使われたりしたら、それはそれでもうずっとデータ残り続けてしまうので、さらに困る。(小井土さん)

利便性の裏にあるコンプライアンスの重要性を、肝に銘じておく必要があります。小井土さんは、研究者としての切実な悩みをこう吐露しました。

一番使いたい場面、インタラクティブなデータの分析。そこにはやっぱり使いたいけども、使えない。そういった悩みがあります。

AIの「光」だけでなく「影」の部分にも目を向ける。その重要性を改めて認識させられるセッションでした。

小井土さんの登壇資料はこちら:

/assets/n9700f62f61cc_1df52c566c085e5e168f8e035f028f3f.pdf


会場の雰囲気をガラッと変えたのは、月額20万円以上のAIサービスに契約しているというナル先生。

ナル先生が紹介してくれたのは、「Vibe Coding」という新しい開発スタイル。これは、厳密な仕様書を書く代わりに、"雰囲気"でAIと対話しながら直感的にアプリを作っていく、まさにAI時代の開発手法。

そして、これをライブで実演する「15分クッキング」が始まる…はずでした

しかし、ここでまさかのネットワークトラブルが発生!!

本当はここで Cursor 起動してブわーってやって「すげえ!」みたいになって「わー!」ってなる予定だったんですけど、映んないんですよ。(ナル先生)

会場は笑いに包まれましたが、これはただの失敗談ではありません。

ネットが繋がらないと我々は無力になることが証明されました。インターネットがないと、もうこのAI時代、ただの雑魚になるということが証明されたんで。(ナル先生)

このハプニングは、逆説的にAI時代のリアルを浮き彫りにしました。AIとの対話こそが開発の中心となり、それを支えるインフラが死活問題になる

また、このトラブル解決中に、話題は「生成AIから生成UIへ」という未来の話に。

UIをもうバイブコーディングしちゃう時代になるんじゃないのかなと思ってて。…テレビのリモコンとか今めっちゃボタン多いですけど、冷静に考えたらなんかフジテレビ見たいだけ、みたいな時に「フジテレビ」とか言ったらすぐ映って欲しいじゃないですか。(ナル先生)

自分専用のUIを、その場の雰囲気や気分でAIに作らせる。この「生成UI」の時代が来れば、日常のあらゆるストレスがなくなっていくかもしれない。

トラブルさえも学びの機会に変える、まさに"バイブス"に満ちたセッションでした。

ナル先生の登壇資料はこちら:

https://docs.google.com/presentation/d/1XR-djXakHGQMmT1IXtHmbB063V1GtfW6dIqWQzMWDrk/edit?slide=id.p#slide=id.p



攻めの話が続いた中で、今度は「守り」の話です。セキュリティSaaS企業であるCloudbase株式会社の瀧澤 哲さんが、企業がAIを安全に活用するための、非常に重要な視点を共有してくれました。

特に注意が必要だと語ったのが、MCPサーバーの扱いです。便利な反面、ここに「ツールポイジニング攻撃」や「ラグプル攻撃」といった攻撃のリスクが潜んでいるというのです。

こちらは(ラグプル攻撃)最初は安全なMCPサーバーとして公開されているんですが、途中から悪意のある動作をするように切り替わって…攻撃されるというものです。(瀧澤さん)

対策としては、公式が提供しているものを使ったり、第三者が作ったものは内容をしっかり確認してバージョンを固定する、といった基本的な対策が有効とのこと。

また、顧客情報の扱いについても、まず実行すべき一歩として、明確な指針を示しました。

実行しやすい1本目のリスク緩和策としてはお客様の情報は一切生成AIに入力しないっていうのが1歩目のリスク緩和策としてはあるかなと考えています。(瀧澤さん)

AIを思いっきり活用するためにも、こうした守りの視点は絶対に必要なんですよね。

瀧澤さんの登壇資料はこちら:

https://speakerdeck.com/tetsuzawa/how-a-security-saas-company-runs-cursor-rules-and-insights



株式会社サイバーエージェントのグンタさんが語ってくれたのは、従業員1万人を超える巨大組織で、いかにしてCursorのような新しいツールを広めていくか、という壮大なテーマでした。

同社の文化は、トップダウンじゃない。むしろ…

サイバーエージェントの文化って、結構勝手にやってくださいっていう文化なので。まあ大きい会社の中にスタートアップが数百個あるっていう、なんかイメージです。(グンタさん)

だから、全社一斉導入なんて夢のまた夢。そこで、グンタさんが取ったのが「バイラル戦略」。ウイルスのように情報を感染させ、草の根的に仲間を増やしていく。でも、それだけじゃ足りなかった。起爆剤は、意外なところにあったと。

外部イベントって最強の社内営業ツールなんじゃないか、というのに気づきました。(グンタさん)

社外のイベントで自社の取り組みを発表し、外部からの評価や熱量が高まる。それが"外圧"として機能し、社内を動かしたというのです。大企業ならではのリアルな戦略は、非常に興味深いものでした。

そして、グンタさんはAI時代の企業の競争力について、こんな未来を予言しました。

未来の企業は、MCPのサーバーの数で決まる。この辺も全部覚えていただきたい。

「MCPの数」が企業価値になる。覚えておきましょう。

グンタさんの登壇資料はこちら:

https://speakerdeck.com/gunta/da-shou-qi-ye-noaiturudao-ru-nobi-woyue-ete-saibaezientonocursorhuo-yong-zhan-lue



今回の会場提供もしてくれた株式会社メルカリ。そのAI開発への本気度が伝わる、象徴的なセッションでした。

まず、そのAI開発環境です。

  • Cursor: 全員使える

  • GitHub Copilot: 全員使える

  • Devin: 徐々に規模拡大中

  • Junie: PoC中

内製LiteLLM基盤(Claude Code, OpenAI Codexなど)

これだけのツールが揃っているだけでもすごいのですが、ライセンスの取得方法もまたユニークです。

メルカリのSlackにいる、ITサービスエージェントっていうなんかかっこいいやつに「Cursorが欲しい」って投稿します。その後に「はい」って回答すると、あといい感じになってライセンスが付与、みたいな感じになってます。(Kuuさん)

申請書も理由も不要。「欲しい」と投稿して「はい」と答えるだけ。この徹底したアクセスのしやすさは、利用のハードルを大きく下げる工夫と言えるでしょう。

では、先ほどCloudbaseの滝沢さんが語っていたMCPサーバーのリスクにはどう対処しているのか?

その点も万全でした。セキュリティチームが安全性を確認した公式サーバーリストに加え、現場のボトムアップで作られた「メルカリ内製MCPサーバー」が多数存在。

Jira、Figma、Google Drive…と、日々の業務で使うツールが網羅されています。利用のハードルを下げる工夫と、徹底したセキュリティ担保。

そして、この充実した環境の上で実施されたのが、「PCP LLM Week」という社内イベント、これも特に印象的でした。

このイベントの中では、1週間、全員が手で一切コードを書いてはいけないというルールにしました。(Komatsuさん)

"コーディング禁止令"…!!

短期的な生産性の低下を恐れず、会社として「AIネイティブになれ」という強いメッセージを発したと。

組織として中長期のために短期的な生産性の低下を許容するという、あの、大胆な意思決定がしやすいというところがあると思います。(Komatsuさん)

その結果どうなったか。

イベント参加者の満足度は92%、そして継続利用意向はなんと96%。驚きの数字です。トップダウンの意思決定と、ボトムアップの環境整備。組織変革の一つの成功事例として、非常に示唆に富む内容でした。

Kuuさん、Shunta Komatsuさんの登壇資料はこちら:

https://speakerdeck.com/fumiyakume/cursorwo-dao-ru-dakeziyanaku-huo-yong-made-merukari2000ren-zhan-kai-noriaru




日本とCursorチーム、実はこんなに近かった

イベントのトリを飾ったのは、Cursorのアンバサダーとして活動するKinopeeさん。

セッションでは、Cursor開発チームから日本のコミュニティに向けた、2つの特別なビデオメッセージが紹介されました。これがまた、非常に示唆に富む内容でした。

最初に登場したのは、デザイン責任者のRyo Luさん。

Cursorとの出会いは僕の人生を変えました。Macを初めて使った時以来、最も革新的なツールだと感じています。(Ryo Luさん)

そして、彼が語る未来像の核心。それは「Vibe Coding」でした。次のように話しています。

そして最も重要なのは、「パイプコーディング」一直感的アイデアをコードに変換する体験ーを誰もが楽しめる ようにすることです・技術的な背景がなくても、アイデアがあれば、それを形にできる世界を想像してみてくださ しい。(Ryo Luさん)

開発チーム自身が「Vibe Coding」を最も重要な目標と位置付けている。この事実は、今回のイベントで示された潮流が、単なるユーザーの期待ではなく、公式なロードマップであることを示唆しています。


続いて、AnysphereのCEO、Michael Truellさんからのメッセージが紹介されました。

日本は実は、世界のCursor顧客数で第3位の国なのです(Michael Truellさん)

なんと、Cursorにとって日本は世界第3位の市場とのこと…!!

そして、その強い繋がりを象徴する、こんなエピソードが、、

昨年末、日本語環境だけで発生していた「文字化け問題」。Kinopeeさんがチームに報告したのが12月27日。すると…

解消したのが大晦日、31日ですよ。このすごいスピード感。(Kinopeeさん)

年末にもかかわらず、わずか数日で問題を修正。ユーザーの声は、ちゃんと開発チームに届いている。この事実は、会場の参加者に大きな勇気を与えたに違いありません。

Anysphere CEO Michael Truellさん、そしてRyo Luさんからの動画メッセージはこちらからフルで見ることができます!

https://twitter.com/kinopee_ai/status/1931291537377226820

https://twitter.com/ryolu_/status/1930979379443794005


3つの大きな潮流:Cursorが変える開発の常識

約3時間にわたるセッション全体を通して、AI開発における3つの大きな潮流が浮かび上がってきます

①「組織導入」の本格化
Cursorは、もはや個人のためのツールではない。メルカリの「強制導入」やサイバーエージェントの「バイラル戦略」といった事例が示したのは、Cursorがチーム全体の生産性を底上げする「OS」になったという事実です。AI活用は、本格的な「組織戦」の時代に突入しました。

②「非エンジニア」の参入
「CursorはAI付きメモ帳です」。みやっちさんのこの言葉は、まさに今回のイベントを象徴していました。コードが書けなくても、「やりたい」という思いさえあればアプリが作れる。面倒な業務を自動化できる。Cursorは、エンジニアと非エンジニアの間にあったスキルの壁を、確実に壊し始めています

③ 「Vibe Coding」の浸透
「Vibe Coding」は、以前から知られた概念です。しかし、今回のミートアップが示したのは、この新しい開発スタイルが、ついに誰もが使える選択肢になったということ。ナル先生のLTやメルカリの「コード禁止令」といったユーザーサイドの熱狂に加え、ビデオメッセージで登場したCursorのデザイン責任者自身が「最も重要なのは、バイブコーディングだ」と語ったことで、この流れが公式なビジョンであることも明確になりました。厳密な仕様書より、AIとの対話。この動きは、今後の開発スタイルの主流となっていくことを強く感じさせるものでした。


熱気冷めやらぬ会場で、参加者の声をキャッチ!

予定時間を大幅に超えた熱いLTセッションのあとは、参加者同士の交流の場である懇親会へ。

何人かの方にお話を伺ってみました。

「コードはもう見ないです。頭の中の完成イメージがあって、ライブプレビューで半分成果を見ながら、プロンプトで自分の頭の中に近づけていく感じですね。

本業では、研修の座席表作成とか、システム化するまでもない面倒な作業を一気に自動化できて、周りにエンジニアがいないので『なんでお前だけそんなにすごいの作れるの?』って言われてます(笑)」
R太郎さん(@masukusoro

「僕、コード全く書けないし、読めない人間なんですよ。Cursor登場前はChatGPTとClaudeをコピペで行き来してましたけど、それより前はプログラミングすら知らなかった。Cursorがなかったら、僕のアプリ(ホースタッツ)はできてないと思いますね」
ハンドボール人さん(@Handball_Jin

「高専の課題がめんどくさくて、ChatGPT 3.5の時からAIを使ってました。Cursorが出てきて『あ、これやばっ』てなって。友達に『Cursorやばいよ』って言ったら、最初は『いやいやVS Codeでしょ』って言われたんですけどね(笑)。

今は数万人規模の会社にいるんですけど、セキュリティが厳しくてまだ使えない。自分が広めないとかなって思ってます」
ソラさん(@sora19ai

とのこと。

プログラミング未経験者がアプリを開発し、非エンジニアが日々の業務を自動化する。

そして、誰もが当たり前のようにAIを使いこなし、それぞれの場所で次のステージを目指している。Cursorがもたらした変化の大きさを、改めて実感させられる声ばかりでした。


まとめ

熱狂とリアルが詰まった、最高のミートアップだった!

予定時間を大幅に超えた熱いLTセッション、そして熱気あふれる懇親会。

そして、この熱狂は六本木の会場だけに留まらず、海を越えてアメリカのCursorチームにも届いていました。スタッフのEric Zakariassonさんによる投稿。

https://twitter.com/ericzakariasson/status/1930998695933129021

「this is insane(これはヤバい)」。6000人以上が参加したこのイベントは、もはや単なるミートアップではなく、一つの「カンファレンス」だと。

この熱狂の中心にあるのは、間違いなくCursorというプロダクトが持つ、凄まじい「勢い」です。

ということで、約3時間にわたるイベントはここでお開き。ご登壇いただいたスピーカーの皆様、そしてこの素晴らしい場を提供してくださった株式会社メルカリと主催のAIエージェントユーザー会(AIAU)の皆様に、心から感謝します。

Cursorが切り拓く、AI開発の新たなチャプターからこれからも目が離せません。


主催:AIエージェントユーザー会(AIAU) 
共催:株式会社メルカリ